レーザー治療

 自律神経と星状神経節ブロック

 星状神経節には、頭・顔面・首・上肢・胸・心臓・気管支・肺などを支配している交感神経が集まっています。いわば”神経のツボ”のようなところです。
 交感神経は、体のあらゆる臓器や器官の動きを自動的に調節している自律神経のひとつです。自律神経には交感神経と副交感神経とがあり、その中枢は間脳の視床下部にあります。呼吸・脈拍・血圧・体温・発汗・排尿・排便など、みんな自律神経によってコントロールされています。
 交感神経と副交感神経は一般的には拮抗的に働き、たとえば、心拍数は交感神経が興奮すると早くなり、副交感神経(迷走神経)が興奮すると遅くなります。
 いったいに交感神経は身体活動を亢進させるように作用し、副交感神経はそれを制御するように作用します。運動をしている時は交感神経が緊張し、休んでいる時は副交感神経が緊張するというに、必要に応じてどちらかの神経系の素養が強くなって肝臓や器官の動きをコントロールしています。
 自律神経の作用が実際にどのように臓器を支配しているか、いくつかの例をあげてみましょう。
(図1)
 交感神経系が興奮すると、@心臓の拍動は促進、A血管は収縮、B血圧は上昇、C瞳孔は拡大、D気管支は拡張、E発汗は促進、F消化活動は制御、G立毛筋は収縮……といった生理現象が起こります。一方、副交感神経系が緊張すると、@心臓の拍動は制御、A血管は拡張、B血圧は下降、C瞳孔は縮小、D気管支は収縮、E発汗は制御、F消化活動は促進、G立毛筋弛緩……といったふうに交感神経の緊張状態とはまったく反対の現象が起こります。
 ペインクリニックでは交感神経ブロックは非常に多く行われますが、このような目的で副交感神経ブロックはまったく行われません。むしろ副交感神経をブロックしないように気をつけます。また星状神経(交感神経)節ブロックを行ったからといって、副交感神経が変化することもありません。
 自律神経系の活動の基調はやはり副交感神経系であって、交感神経の働きはむしろアクセント的な役割であって、このコントロールが重要と考えられます。
 


 星状神経節の支配領域 
 
さて、星状神経節はすでに述べたように交感神経系の神経筋(神経の合流点)で、顔、顔面、首、肩、上肢、胸、心臓、気管支、肺、などを支配している交感神経が集まっています。皮膚面でいえば、左右の乳頭を結ぶ直線を背中の方まで伸ばし線から上が星状神経節の支配領域で、左側と右側をそれぞれ分担しています。つまり右の星状神経節は右側を、左側の星状神経節は左側を支配しています。
 人体実で、汗をかくと色が黒く変わる粉を皮膚の表面に塗り、どちらか一方の星状神経節だけをブロックしてから、非常に暑い部屋に入ると、ブロックされない側は普通に汗をかき、ブロックした側はまったく汗をかきません。たとえば右側の星状神経節をブロック(局所麻酔を注射)した場合、定規で線を引いたように頭、顔、首、背中の左半面と左側だけが白く抜けて、あとの部分は黒く染まってしまいます。また、仮に左右の星状神経節を両方ともブロックした場合(実際にはできない)、左右の乳頭を結ぶ線を境にして上は白く、下は黒く色分けされることになるでしょう。つまり、このように星状神経節は、胸から上の皮膚から内臓まで全てに及んでいる訳です。



 星状神経節ブロック治療法のすばらしさ
 
 星状神経節ブロックとは、すでに述べましたように、のどのところにある星状神経節という神経の「ツボ」のような部位に局所麻酔薬を注入し、交感神経の作用を遮断する療法です。
 英語の「stellate ganglion block」から「SGB」という略称がよく用いられます。
 stellateは「星型の」、ganglionは「塊」という意味を表す語ですが、この場合は「神経節」の意味で、神経細胞が集まって太くなっている神経の部分の名称として使われます。
 さて、星状神経節ブロック療法は、自律神経系の中枢である視床下部に影響を及ぼし、全身的に交感神経の緊張を緩和します。交感神経の過緊張(過剰な緊張)が、全身的にさまざまなトラベルを作り出す仕組みは、血液の循環障害が起こり、ホルモンの分泌が乱れ、病気を防ぐ免疫の働きも低下するというように、体の健康を保つおおもとの仕組みが混乱するために、いろいろな病気や症状が起こってくるわけです。それに対して、星状神経節ブロック療法は、おおもとの原因である交感神経の過緊張を緩和するので、いろぴろな病気や症状が治ってくるのです。
 人の体には、体内に生じたいろいろな機能のアンバランスを元の状態に復元しようとする作用「ホメオスタシス」(生体の恒常性維持)の機能があります。
 体温の調整、代謝の調節、ホルモンのコントロール、こうした生体の恒常性を維持するためのさまざまな働きを統括しているのが視床下部です。
 図5に示すように精神・情動の刺激、環境条件の変動による情報、体の内部の変動の情報がすべて視床下部に集まります。視床下部はこの情報から適切な判断をして、免疫系、内分泌系、自律神経へそれぞれ指名を発して体の恒常性維持を図っているのです。したがって、この情報を集めて指令を発するどの過程に異常が起こっても、病気になると考えてよいでしょう。
 星状神経節ブロック療法の自律神経系に対する作用は、まず全身の交感神経の過緊張を緩和し、うっ帯していた血行を改善することです。この血行改善こそ、星状神経節ブロックでいろいろな病気や症状が改善される最大の理由です。
 体には自然治癒力が備わっていますが、その自然治癒力を発揮させるのが、血液です。血液の中には細胞を賦活する酸素や栄養分とともに自然治癒力を助ける物質(免疫物質)もたくさん含まれています。ですから、血液循環をよくすることが、あらゆる病気の治療法の基本なのです。



 星状神経節ブロック(SGB)と星状神経節照射(SGR)
 
 星状神経節ブロック(写真3)がペインクリニック領域で頻用され、すばらしい治療効果があることは今までに述べてきました。
 しかし、この手技を施行するためには針を刺す部位や角度、深さなどがシビアで難しく、医師でもある程度の訓練が必要であることと、嗄声や上腕神経叢ブロックの発生などの副作用や合併症もあって、誰でもが施行できる手技ではないことが欠点でした。
 また、患者にとってみても、生体に針を刺し薬液を注入する訳ですので当然痛みを伴い、何回も続けることが多いため非常に苦痛を伴います。中には体調上、もしくは体質上SGBのできない患者もいます。
 その点、スーパーライザーを用いた光線療法である星状神経節照射(写真4)SGRは、どのような患者にも施行でき、無痛かつ無侵襲であることに加えて、実施が容易な治療法であるといえます。
 特に、小児での使用は安全・無痛であることから非常に受け入れられやすく、麻酔科医の中からも”なくてはならない方法の一つ”という声も多く出ております。



 SGR前後の手背温変化
 
 頸椎症で手に冷感のある患者に星状神経節照射をして、その手背温の変化をサーモグラフィーで経時的に見たのが(写真5)です。左上の写真は治療前の手背温で、血流が悪く温度が低いのがわかります。
 左下は患者に寝てもらい、10分間安静にしたときの温度です。手の位置が心臓と同じ高さになった為、少し血流が良くなり多少の温度上昇がみられます。
 その後、星状神経節に10分間照射した時の温度が右上の写真です。有意な温度変化が見られます。右下は、さらに10分間安静にした後の温度です。まだ温度が上がっていきます。



健常成人に対して、右側星状神経節照射後の顔面及び上肢の温度変化です。(写真6)上肢だけでなく、顔面にも血流増加に伴い温度変化がみられます。神経ブロックと違い、反対側にも温度変化が現れます。
 以上のように、スーパーライザーを星状神経節に照射することによって、神経の遮断まではできませんが、星状神経節ブロックと同じように交感神経の緊張を取り、血流改善効果による「痛みの悪循環」も改善することができます。
 なぜ、星状神経節に光線照射をすると、神経ブロックと同じように交感神経の緊張を緩和し、血管拡張作用に伴う血流改善が起こるのかは、低出力レーザーと同様現在のところ、まだ完全には釈明できていません。
 しかし、今までに全国の大学病院の先生方より多数の臨床報告がなされ、スーパーライザーの治療効果が証明されております。



 星状神経節ブロックの適応症
 
 ペインクリニックでは、次のような病気が星状神経節ブロックの適応症とされています。
支配領域
帯状疤疹、反射性交感神経萎縮症(カウザルギー、幻肢痛、断端痛)
頭部疾患
頭痛(片頭痛、筋収縮性頭痛、群発頭痛、側頭動脈炎)、脳血管攣縮、脳血寒、脳梗塞、円形脱毛症
顔面疾患
未梢顔面神経麻痺(ベル麻痺、ハント症候群、外傷性顔面神経麻痺)、顔面痛(非定形顔面痛、咀嚼筋症候群、顎関節症)
眼疾患
網膜血管閉寒症、網膜色素変性症、視神経炎、角膜漬痬、緑内障、アレルギー性結膜炎、飛蚊症、眼性疲労
耳鼻科疾患
アレルギー性鼻炎、急性・慢性副鼻腔炎、突発性難聴、メニエール病、鼻閉症、扁桃炎、耳鳴、咽喉頭異常感症、嗅覚障害、花粉症
口腔疾患
抜歯後痛、舌痛症、潰痬性口内炎
上肢疾患
上肢血行障害(レイノー病、レイノー症候群、急性動脈閉寒症、バージャー病)、頸肩腕症候群、外傷性頸部症候群、胸郭出口症候群、肩関節周囲炎、術後性浮腫(乳房切断後症候群)、骨折、テニス肘、腱鞘炎、頸椎症、腕神経ニューローパチー、(外傷性、術後)、強皮症、関節炎、多汗症、凍傷、凍瘡、肩こり
心臓疾患
心筋梗塞、狭心症、洞性頻脈
呼吸器疾患
慢性気管支炎、肺栓寒、小児喘息
その他
痔核、便秘、不眠症、冷え性、自律神経失調症
         「ペインクリニック 神経ブロック法」若杉文吉監修より
その他の治療として
肩こり、首の痛み、背部痛、腰痛、膝痛などの痛みにもどうぞ。